ロッド/ブランクについて。 |
メールでのお問い合わせをいただいていたのですが、
お客様のご要望により、こちらでご回答いたします。
S様、遅くなってしまい申し訳ございません。
ロッドについての質問:
いつもブログ見てます。
表題の件なんですが、僕はソルト・フレッシュともに
ダイコーさんのロッドを愛用させて頂いてるのですが、
ふとロッドを見ているとバットは奇麗なカーボン模様が見受けられるのですが、
その他の部分はカーボンシートが巻かれているだけに見えます。(バロウズの場合)
他社さんは○○○クロス等、強度?補強なので見た目も含み販売していますが、
ダイコーさんの竿には何か施しているんですか?
ダイコーさんの竿は昔から使用しているので信頼はしていますし、
疑ってはいないですが、気になったもので。
ある程度は企業秘密等あるかとは思いますが、
ブログを通じて回答いただけたら幸いです。
ps 愛用してる竿 バロウズ2本 サイラス1本 トライバルエグゼキューター1本
まだまだ現役です!!次はスクーデリア欲しい!!!
というものなのですが、一部お答えしにくいところもございますが、
少しだけおさらいしておきますと、以前、ここで触れた通り、
私どもがブランクに用いるカーボン素材は、‘プリプレグ’と呼ばれる
航空機の尾翼やフロアビームなどの航空用途や、
ゴルフクラブのシャフト、テニスラケットのフレームなどのスポーツ用途を中心に、
極めて幅広く用いられているものと同質のものです。
プリプレグとは、高性能炭素繊維を多本数平行に引きそろえたシート状のものに、硬化剤を含む熱硬化性樹脂( マトリックス樹脂:主にエポキシ) を含浸させた成形材料であり、多種多様なバリエーションが存在し、‘一方向プリプレグ(UDプリプレグ)’や‘織物プリプレグ’などと、その性質や製法の差異によって区分され呼称されるものです。
この織物系のプリプレグに含まれるのが、
お問い合わせのバロウズのバットセクションなどに用いられている
平織りや綾織、4軸などと呼ばれる織柄がキレイに見える素材です。
これらのカーボンプリプレグの他に、
グラスロッドでおなじみのガラス繊維のプリプレグをはじめ、
アラミド繊維「ケブラー」や、異種繊維を組み合わせたハイブリッドプリプレグなども、
優れたカーボン供給メーカーの技術躍進により、進められるようになってきたことは
ロッドに限らず、様々なカーボン素材を用いた成型品からも
見て取ることができると思います。
WEBサイトTOPページのフラッシュで使っているものと同じ画像ですが・・・。
コチラはボロン。
この辺の素材特性についてのお話は、私が稚拙なご説明を差し上げるよりも、
東レさんや東邦テナックスさんなどのプリプレグ供給メーカーさんの
WEBサイトをご覧いただく方が間違いないと思います。
さて、弊社の製竿技術について踏み込んだ部分のお話について触れることは難しいですが、
一つ間違いのないことは、私たちが製作するブランクで
最もプライオリティを高く置いている点とは、
プライマリーな部分で出来うる限り補強の必要のない、
多方向からの負荷に対する強度を発揮する強いブランクを製作することです。
これは、新素材や新製法の導入ももちろんなのですが、
素材の特性を熟知した設計開発技術と、
間違いのない製作技術の蓄積があってのことです。
また、‘補強’の概念の部分に言及するのは、
「竿屋」としての大人の事情で控えさせていただきますが、
1本のブランク/ロッドには、皆さんが想像されているよりも遥かに多くの人間が携わり、
さらには、フィールドスタッフ諸氏らの
お客様からのご要望が反映された、
釣趣を極めたテイストが盛り込まれていることは言うまでもありません。
昨今のロッド市場においては、フワッと軽い、
張りの強いロッドが求められる傾向が強いですが、
もちろん、そういったロッドにも弊社ならではの厳格な強度規格が存在しますので、
単純な軽量ロッドとは「ブランクの本質」について、比べるべくもない自負はあります。
余談ですが、ウチのカタログによく見られる、
‘用途・目的に応じて適切な素材を厳選して・・・’というものについては、
端的には要求される特性、成形性などによって、
下記のようにプリプレグの品種を選択しなければならないということであります。
・炭素繊維の種類と単位面積あたりの繊維重量
・樹脂(レジン)の種類とプリプレグに対する樹脂含有率
これは・・・ドンブリ(器)に対して、
麺の多いラーメンか、ツユの多いラーメンか
という例えをだいぶ前にご紹介したことがあると思います。
先の素材供給メーカーさんのWEBサイトなどをご覧いただければ、
恐らく、皆さんが思われているよりも樹脂(レジン)の含有量が
‘多い’と思われることでしょうが、
一般的に低レジンや高レジンと呼ばれるものそれぞれに一長一短がありますので、
求むる要素に応じた素材自体のバランスもきわめて重要な要素、ということになります。
また、‘何か施しているのか?’という部分については、
タイドマークシリーズなどアンサンド仕上げの商品について、
幾重にも複雑に重ねられた素材の一端を
ブランクの表情から見て取ることもできると思います。
単純に、もっともブランクの良さを引き出すことが可能な仕上げであることももちろんですが、
精緻に計算しつくされたブランク自体に自信があればこその仕様であるが故の、
アンサンド仕上げ、と捉えて頂ければ幸いです。
ちなみに、よく話題に出る「素材」の部分についてですが、
下記はプリプレグ(カーボンシート)の扱いについて、
とあるプリプレグ取り扱い業者さんの
WEBサイトに掲載されていたものを拝借したものです。
弊社の管理規格でないことを予め断っておきますが、
一般的に、生鮮品に近い管理が求められることを参考までに記載しておきます。
写真は裁断前のプリプレグのロール。
扱いとしてはほぼ、食品と同じ、‘生もの’です。
◆プリプレグの保管
・使用しない材料は 冷凍庫にて保管する事
環境:冷凍庫内の温度は-18℃以下
・ビニール袋等にて密閉し、袋の口はビニール紐等で縛った状態にて保管
◆プリプレグを冷凍庫より出した時(暴露)
・常温環境化で8時間以上放置し ビニールより開梱すること
・8時間以上経っていて、水滴/結露が無い状態で ビニールより開梱し 作業に使用すること
・水滴/結露がある場合は さらに数時間放置する事
◆プリプレグの使用期限
・常温下での使用期限:約30日 *常温環境=温度24℃程度まで
・冷凍保管下での使用期限:約6ヶ月
これらのお話はあくまでエンジニア的な視点においての話であり、
実際に商品を使用するアングラーの皆さんにおいては、
‘ウンチク’以外に大した意味を成さない部分です。
それよりも、そのロッドのブランクがどのような特性を備えたものなのか
という部分のご理解と、
実際にどのような釣り(ロッド)を志向されるのか
ということを考慮していただくことの方が、
間違いのないロッドチョイスを実現するための重要な要素となります。
弊社では、表記スペックは近似していても、
全く異なるテイストを備えたロッドがラインナップされています。
個々のアングラーのスタイルに応じて、
‘自分に合う’ロッドを是非、探していただきたいと思います。